部位、脂、挽き方、こね方。挽いた瞬間から料理人の設計が始まる。
同じ4.1でも、専門店の4.1と老舗洋食店の4.1では意味が違う。料理は、数字だけでは決まらない。
食べログ単純平均とGoogle評価を重ねることで、東京のハンバーグの別の景色が見えてきた。しかし、同じデミグラスでも、街場洋食とレストランでは皿の設計が違う。同じ肉汁でも、演出と火入れの結果では意味が違う。
そこで第5話では、岩本忠、ハンバーグ王子こと松島和之氏、そして肉屋、食品メーカー、料理人の立場から参加する覆面審査員が、数字では見えない差を語る。
同じハンバーグでも、
一皿の設計は違う。
肉の形、焼き色、ソースの濃度、付け合わせ、器、余白。写真から見える差は、評価の入口であって結論ではない。








中心まで安全に火を通し、それでもジューシーに仕上げる技術。
肉を支えるのか、皿を完成させるのか。役割とバランスを見る。
日本の洋食として、白米とどう結びつき、食べ進めさせるか。
挽肉と米と香味屋は、
同じ土俵なのか。
データ上は挽肉と米が強く、老舗洋食では香味屋が強い。そもそも、この二店を並べて語ることに違和感はありませんか。
あります。ただ、その違和感こそが東京のハンバーグの面白さだと思います。挽肉と米は、料理、予約導線、カウンター体験、米、焼きのライブ感まで含めて設計された現代型のハンバーグです。一方で、香味屋は白いテーブルクロス、デミグラス、付け合わせ、サービスまで含めた老舗洋食レストランの一皿です。
単純に同じ物差しで比べるのは難しいですね。でも、どちらもハンバーグという料理を強く記憶に残す力がある。挽肉と米は体験として強い。香味屋は洋食の皿として強い。それぞれの強さを見極める必要があります。
挽肉と米は「どう食べさせるか」まで完成している。一方で、香味屋は「一皿をどう完成させるか」の料理です。調理の思想が違う。どちらが上というより、評価すべきポイントが違います。

肉、米、焼き、提供方法まで一体で設計する。

デミグラス、付け合わせ、サービスまで含めて皿を完成させる。
価格だけでは見えない、
体験価値。
香味屋
¥2,500別途サービス料10%。支払目安は2,750円前後。老舗レストランの空間、テーブルサービス、皿の構成を含む。挽肉と米
¥1,98090g×3個。完全Web予約制で、早期予約に追加1,000円が必要となる場合は実質2,980円。価格をどう見ればいいでしょうか。
価格は単なる数字ではなく、体験の設計とセットで見るべきです。香味屋はレストラン体験。挽肉と米は現代型のハンバーグ体験。どちらも価格に含まれる価値が違います。
ハンバーグは安ければ良いわけではないし、高ければ良いわけでもない。食後に、その価格に納得できるか。そこが大事です。

ハンバーグは、挽いた瞬間から料理人の設計が入る。
肉屋の立場から見る、
ハンバーグ。

ハンバーグはかなり難しい料理です。ステーキは塊肉の個性をどう焼くかですが、ハンバーグは挽いた瞬間から料理人の設計が入る。部位の選び方、脂の入れ方、挽き方、こね方、空気の抜き方、成形、焼き。全部が味に出ます。
食べていても、肉の香りが立つハンバーグと、ソースで食べさせるハンバーグは違いますね。どちらが悪いという話ではなく、何を主役にしているかが違う。
その通りです。肉を前に出すなら、挽き方と火入れが重要になる。ソースで完成させるなら、肉とソースのバランスが重要になる。ハンバーグを主役にした店と、洋食の一皿として出す店で評価軸が違うのは当然です。
美味しさの前に、
安全です。
今回、レア状態を売りにするハンバーグは対象外としました。
これは好みや流行、評価軸だけの問題ではないということですね。
そうです。美味しさの前に、安全です。ハンバーグは挽肉料理です。塊肉とは異なり、表面に付着した病原体が内部まで入り込む可能性があります。厚生労働省は、動物の種類を問わず、ハンバーグなどの生の挽肉製品を中心部まで十分に加熱するよう求めています。
中心まで火を入れ、それでもジューシーに仕上げることが料理人の技術です。客に最終加熱を委ねるのではなく、店が安全性まで含めて一皿を完成させるべきだと考えます。
公的機関が公表した事例を見ると、加熱不十分なハンバーグに関連するO157食中毒は、2000年、2023年、2024年、2025年と、複数年にわたって繰り返し確認されています。全国の全事例を網羅できる統計区分はないため、根拠を確認できない合算人数は示しません。重要なのは、同じ種類の事故が一度ではなく再発している事実です。
2000年の横浜市の事例では、O157に汚染されたハンバーグパテの加熱不足が原因と推定されました。2023年の越谷市の事例では、表面のみを焼き、中心部を十分に加熱しない状態で提供し、客が卓上の溶岩石プレートで焼いて仕上げるセルフ焼き方式の店舗で、1都5県3市にまたがる14名の患者が確認されています。2025年の島根県の事例では、厨房で表面を加熱した後、客席で従業員が鉄板へ押し付けて最終加熱する提供方法に加熱ムラがあり、繁忙時に中心部まで十分に加熱できず、102名が症状を呈する集団食中毒に至りました。それぞれ異なる提供工程で起きた、独立した公的記録です。
特定企業の衛生管理や品質管理を一括して否定するものではありません。しかし、公的機関が挽肉料理の十分な加熱を求めている以上、当総選挙では共通の選考基準として、中心部の生状態を価値として提供する料理と、客自身の追加加熱に完成を委ねる料理を対象外とします。
店が火入れを完結させる。
中心部まで十分に加熱し、安全性と美味しさを店側の責任で成立させた一皿を評価対象とする。店側が火入れを完了し、焼き台や鉄板を保温に用いる形式は対象に含む。
生状態を価値として提供しない。
中心部の生状態やレア感を訴求するもの、客自身の追加加熱に料理の完成を委ねるものは選考対象外とする。
「情報を食べるのではなく、THE JUDGING VIEW / EPISODE 05
料理をどう成立させているかを見る。」
情報を食べる時代に、
料理をどう見るか。
InstagramなどのSNSを否定しているわけではない。いまの飲食店にとって、発信力は間違いなく重要である。ただ、映えに偏ったアクセス数や拡散力と、料理そのものの完成度は同じではない。
ミシュランやゴエミヨのようなガイドにも価値はある。ただ、洋食は西洋料理を日本人の食卓へ翻訳し、米飯に合わせて独自に進化してきた料理である。いまでは米にもパンにも合い、日本酒にもワインにも寄り添う。家庭料理から町の食堂、ホテル、高級レストランまでを横断する、その幅の広さ自体が洋食の特徴である。
米に合うこと。ソースが一皿として成立していること。付け合わせがあること。子供の頃の記憶、大人になってからの外食、街の洋食店としての安心感。肉の扱い、火入れ、価格、清潔感、店としての継続性。そうした日本人の暮らしとの関係まで含めて、ハンバーグは評価されるべき料理である。
設計の違いは、
皿の上に現れる。



今年の総選挙で、
見るもの。
東京ハンバーグ総選挙2026が見るのは、単なる点数でも、単なる話題性でもない。
ハンバーグを主役にした店には、専門性と体験設計がある。洋食・レストランの一皿型には、ソース、皿、空間、継続性がある。どちらが正しいという話ではない。
重要なのは、その店がハンバーグをどう考え、どう料理として成立させているかである。
ハンバーグ主役型
肉、火入れ、米、ライブ感、提供導線まで含めて、専門店としての体験を評価する。
洋食の一皿型
ソース、付け合わせ、サービス、空間、店としての継続性まで含めて評価する。
